
本記事では、レーザー走査型顕微鏡を作るためにDVDピックアップのリバースエンジニアリングをしたので、その結果を紹介します。
次回「レーザー走査型顕微鏡を作る」で、顕微鏡の作り方を紹介します。
はじめに
光学ディスクのピックアップは、大量生産によって非常に安価に入手できるわりに、とんでもない性能を持っています。
- レーザー光を直径1μm程度のスポットに集光させる
- 2層DVDの層を分離できる程度の非常に薄い被写体深度と高精度なピント合わせ
- 「非点収差法」を使って、物体との距離を精密に測定できる
- 高速かつ高精度なスポット位置決め
- ディスクに700nm間隔で並ぶ幅300nmのトラックに正確に追従
- 10000rpm・線速度60m/s(216km/h)で回転するディスクに追従できる程度の速さ
- 非常に強いレーザー出力
- パルス駆動で300mW、連続発光(CW)で100mW程度 (書き込み対応ドライブの場合)
- レーザー加工機と比べたら小さいが、こっちは直径1μmに集光できるぞ
- 高周波性能
- レーザー光を100MHzで点滅させて、反射光を検出できる

用途
このように、ピックアップはDVDを読み込むだけに使うにはもったいないくらいの性能を持っています。なので、いろんなことに使えます。
- レーザー走査型顕微鏡
- 非接触の振動・変位測定
- ひずみゲージの代替に?
- MEMSデバイスの特性測定に使った事例
- 原子間力顕微鏡のカンチレバーの変位検出
- カンチレバーの移動を圧電スピーカー、変位検出をDVDピックアップで行うことで原子間力顕微鏡を自作とかマジですごい
- Operation of astigmatic-detection atomic force microscopy in liquid environments
- DIY AFM (Atomic Force Microscope) (LEGO2NANO Project)
- Strømlingo Nssembly AFM
- Strømlingoは日本でも買えます 生体分子計測研 DIY-AFM
- 微細加工・レーザー加工
- ナノスケール3Dプリンタ Micro and nanoscale 3D printing using optical pickup unit from a gaming console
- 感光基板の露光 PCB printer which uses a Blu-Ray™ pickup
- レーザートリミング
- 回折格子・回折レンズ(ゾーンプレート)の自作
- カッティングマシン
- バイオ分野 (細胞の測定とか)
- パーティクルカウンター
- LSIに対する fault injection 攻撃
- um単位で精密に位置合わせしてシリコンダイにレーザー照射
- 「メモリの特定のbitだけ反転させる」とかできるかもしれない
- 100MHz超でレーザーを点滅させることができるので、レーザーをDUTのクロックと同期させると面白いかも
- 組込機器のセキュリティを脅かすレーザーフォールト攻撃
リバースエンジニアリング
こんな安価かつ高性能なおもしろデバイスを使わないわけにはいきません。そのためには、使い方を知る方法があります。
ピックアップのデータシートは社外秘であり、使い方を知る方法はリバースエンジニアリングしかないのです。
実際、Xbox360のHD-DVDドライブに使われていた 東芝 PHR-803T
ピックアップは、世界中のオタクが寄ってたかって解析してくれたおかげで、仕様がほとんど丸裸になっています。もはやレーザーピックアップ工作界隈のデファクトスタンダードです。
今回は、PHR-803T
より安い、AliExpressで300円くらいで買えるXbox360のDVD-ROMピックアップ "HOP-150X
" (別型番: "HOP-15XX
" ) を解析しました。
レーザーダイオードと受光素子(PDIC)のピンアサインをまとめておきます。
PDIC
レーザー光を受光して電気信号に変換するPDIC (Photodetector IC)の解析。
DVD用PDICは100MHzで点滅する光を電気信号に変換できるくらいの応答速度があるので、いろいろと使い道はあると思います。
PDICのダイには"NEC C9134"の記載があります。

ピンアサイン (Pinout)
PDICに赤色LEDを照射して、ピンの電圧がどのように変化するのかを調べました。
電源電圧は5Vです。リファレンス電圧 Vref
には2.0-2.5V程度を加えればよいでしょう。
Pin NO. | NAME | TYPE | NOTE |
---|---|---|---|
1 | Vcc | POWER | 5.0V |
2 | RF- | Diff OUT | 40mVp-p |
3 | RF+ | Diff OUT | 40mVp-p |
4 | OUT1 | Analog OUT | 20mVp-p |
5 | OUT2 | Analog OUT | 20mVp-p |
6 | OUT3 | Analog OUT | 120mVp-p |
7 | OUT4 | Analog OUT | 120mVp-p |
8 | MODE_SELECT | Digital IN | CD or DVD |
9 | OUT5 | Analog OUT | 120mVp-p |
10 | OUT6 | Analog OUT | 120mVp-p |
11 | OUT7 | Analog OUT | 20mVp-p |
12 | OUT8 | Analog OUT | 20mVp-p |
13 | Vref | POWER | 2.0 – 2.5V ? |
14 | GND | POWER |

センサ出力は、振幅が小さい(20mVp-p)グループと、振幅が大きいグループ(120mVp-p)に分かれます。
どの検出領域がどのピンに対応しているのか、までは調べていません。
おそらく、振幅が小さいグループがメインの受光素子、振幅が大きいグループがトラッキングエラー用の受光素子なのだと思います。知らんけど。
非点収差法によって「フォーカスエラー信号」、つまり ディスクと対物レンズの距離 が得られます。
フォーカスエラー信号は、メインの4個の受光素子の出力を加減算することで求められます。
さらに解析を進めて、フォーカスエラー信号の取得までやりたいですね。
フォーカスエラー信号が得られれば、精密・非接触・高速応答の高性能な距離計(レーザー変位計)として使えます。素晴らしいですね。
μmオーダーの微小な変位をMHzオーダーの高速応答で検出できるんですよ、すごくないですか?いろんなことに使えそうですよね。
トラッキングエラー検出は、「トラッキングサーボによってレーザーがトラックからずれないようにする」役目があります。 ディスクを読み込むときのトラッキングエラー検出以外の使い道が思いつきません。
非点収差法、フォーカスサーボ、トラッキングサーボの詳細については、下記の文書を読んでみてください。
Laser Diode
赤色LDは100Ωの電流制限抵抗を直列につないで5Vを加えると、30mAくらいで良い感じに光りました。Vf=2.0Vくらいですかね?
基板にはLD制御用と思われる6ピンのICが載っていますが、その使い方までは調べていません。
おそらく、ICはLDを数MHzで点滅させるような動作をしているのだと思います。
LDを点滅させると、ロックインアンプの原理を使って信号処理によってノイズ(外乱光)を除去することができます。
また、点滅させることによって発熱が減るので、ピーク輝度を引き上げることができます。
LDは静電気にメチャクチャ弱いので、取り扱いには気を付けてください。

Pin NO. | NAME |
---|---|
1 | LD RED(赤色) + |
2 | GND |
3 | 不明 |
4 | LD IR(赤外線) + |
はんだジャンパ外し
新品のピックアップは、レーザーダイオードが静電気で壊れないようにはんだジャンパでショートしてあります。
はんだジャンパを除去しないと、レーザーダイオードが点灯しません。
レーザーダイオードは静電気にメチャクチャ弱いので、取り扱いには気を付けてください。

ボイスコイルモータ
レンズを動かすボイスコイルモータ。
抵抗値は4~5Ω。
可動範囲の端から端まで動かすのに必要な電圧は±200~300mV程度。
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